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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)85号 判決 1963年1月22日

控訴人 中村和子

右訴訟代理人弁護士 渡辺粛郎

被控訴人 萩原幸策

右訴訟代理人弁護士 花房節男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、被控訴人がその所有にかかる原判決添付目録記載の土地上に同目録記載の建物を所有し、その二階をアパート、一階を九軒の店舗として分割しそれぞれ賃貸していたこと、控訴人は右建物のうち階下南から五番目の店舗建坪七坪五合を被控訴人から賃借していたこと、ところが、右建物が昭和三五年一月三日火災に遭つたこと、控訴人は依然右焼残りの賃借部分の使用を継続し、その敷地を占有していることはいずれも当事者間に争いがない。

二、被控訴人は、本件建物は右火災により全焼し、控訴人の賃借部分も焼失したから、同人との間の賃貸借契約は目的物件の滅失により終了したと主張するに対し、控訴人はこれを争うので考える。

当審での検証の結果、原審での証人菅野国助の証言、原審ならびに当審での被控訴本人の供述を総合すると、次の事実が認められる。本件建物は二階を各室四畳半のアパート向きに一六の部屋に分ち、階下を九軒の店舗に分かつて建設せられた二階建て一棟であつたが、昭和三五年一月三日の火災により右建物の約八割五分が焼け落ちた。そして、右建物のほぼ中央階下にあつた控訴人の賃借店舗は、その二階は完全に焼失し、店舗の天井は、焼失前の二階廊下のコンクリートの便所跡に当たる部分を僅かに残し、その余は表側裏側ともに焼け落ち、店舗の柱と壁が炭化して残存し、その北隣り、南隣りの各店舗は一、二階とも完全に焼失した。関係人の申請により西成消防署長は本件建物が右火災により全焼したとの認定をなし、被控訴人は建物に対する火災保険につき三八〇万円の保険金を受領したが、控訴人は冷蔵庫、洗濯機などが焼け残つたため、保険金五〇万円の動産保険契約につき四五万円の保険金を受領した。以上の認定事実によると、本件賃貸借の目的物件は焼失により滅失したものと認めるに十分である。

もつとも、前掲証拠によれば、控訴人は火災後被控訴人の意思に反して応急的の糊塗策として本件焼残り残存物の天井部分に野地板代りの樽木を置き、トタン板を張りつめ、天井、壁の各内部に化粧合板を張るなどの弥縫的工作をして店舗としての使用を継続している事実が認められる。

しかしながら、目的物件がなお当該賃貸借の目的としての性質形態を維持しているかどうかは、当初のそれを度外視してこれを判断することはできない。本件賃貸物件の焼失燃焼程度はさきに認定したとおりであり、かつ前記の如く一、二階とも建坪六八坪五合の二階建て建物の階下の九分の一に過ぎずしかもその位置は右建物のほぼ中央にあつて、元来一階建ての独立家屋ではないのである。前記証拠によれば、右焼残り残存物を爾後独立建物として存置することは建物ならびにその敷地の所有者である被控訴人の意思に反することは余りにも明白であり、客観的にみても、建物全体の跡地の利用を著しく妨げるものである。このような状態で、控訴人が被控訴人の意思に反して焼残りの部分に施した前記工作はあくまで自己の利益のみを考えてもはや建物ではなくなつた焼残り部分を強いて利用するためになした応急的暫定的措置たるに過ぎず滅失を免れた賃貸借の目的たる建物があつて、これに対してなされた補修工事というに値しないものである。それゆえ、控訴人が現に焼残り部分に或る程度の工作を加えてこれを使用しているとの事実は本件賃貸物件が滅失したとの前記認定を妨げるものではない。

そうすると、本件賃貸借契約は目的物件の滅失により終了したというべきであるから、控訴人は右焼残り部分(もつとも、火災後控訴人が加工した工作の結果現在は店舗の形態をなしている)およびその敷地を被控訴人に明け渡さなければならない。

三、損害金請求について。

原審ならびに当審での被控訴本人の供述当審での控訴本人の供述、原審での証人菅野国助の証言を総合すると、次の事実が認められる。本件建物が焼失したので、被控訴人は直ちにその焼跡に従前と同一の建物の建築を計画し、焼失前の建物の賃借人らと話合いの結果、控訴人と火元となつた者を除く各賃借人らは、新築建物が完成次第従前と同様の部分を賃貸する申し合せのもとに一戸当り一〇万円の金員を被控訴人より受領して右建物の焼跡から退去した。ところが控訴人のみ右解決策を承服せず、人を介して一〇〇万円の立退料を要求し焼残り店舗に踏みとどまつて被控訴人の新築工事を妨げているが、右妨害行為なく、被控訴人が直ちに新築工事に着手していたならば、遅くとも昭和三五年四月末までには工事が完成してこれを従前の賃借人その他に賃貸することにより、同年五月一日以降右賃貸により得べかりし賃料から諸経費、償却費などを差し引き、少なくとも一ヶ月三万円の純利益を挙げることができた筈である。

したがつて、被控訴人は控訴人の前記明渡し義務不履行により昭和三五年五月一日以降控訴人がその明渡しずみに至るまで右新築によるうべかりし利益を喪失し、同額の損害を加えられているものというべきである。そして右損害は特別事情による損害と認むべきであるが、前記証拠によれば、控訴人は右損害の発生を予見したかあるいは少なくとも十分に知り得た筈であると認められる。そうだとすれば、控訴人は被控訴人に対し昭和三五年五月一日以降本件焼残りの賃借部分(現況店舗)およびその敷地の明渡しずみに至るまで一ヶ月三万円の割による損害金を支払うべき義務があるというわなければならない。

四、反訴請求について。

控訴人は主張の建物の敷地につき借地法第六条の規定により向う二〇年間の借地権を有することの確認を求めているが、控訴人が被控訴人との間に右建物の敷地について賃貸借契約あるいは地上権の設定契約を締結したことについて何等の主張立証がないから、右請求は失当である。

五、結論

そうすると、本訴請求は以上認定の限度においてこれを正当として認容すべく、反訴請求は棄却すべく、これと同旨の原判決は相当である。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 平峯隆 判事 大江健次郎 北後陽三)

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